ドラゴンクエストのバージョンアップ当日、9月26日。
嫁は有給を取ってドラクエ三昧。
俺も会社に無理を言って有給を取らせてもらった。
もちろん嫁には内緒でだ。

 

■これまでのお話
とあるオーガの手記その1
とあるオーガの手記その2
とあるオーガの手記その3
とあるオーガの手記その4
とあるオーガの手記その5
とあるオーガの手記その6
とあるオーガの手記その7
とあるオーガの手記その8
とあるオーガの手記その9

 

朝、いつものようにスーツを着て出社準備をする。（もちろん実際に出社はしない）
嫁はドラクエの事が気になっているのか妙にそわそわしている。
単純にゲームを楽しんでいるだけなのであれば微笑ましい光景なのだが、その裏に男の影が見えると、こんなにも不快に感じるのかと自分でも驚く。
ドラクエに罪はないのだが、あんなに好きだったドラクエシリーズも大嫌いになってしまいそうだ。

 

7時半、家を出る。
一旦マンションを出て、すぐにマンションに戻って、階段の踊り場のようなところで座る。
うちのマンションの階段はほとんど誰も使わないので、待機しておくにはぴったりの場所だ。
盗聴器の電波も良好なのを確認済みだ。

 

イヤホンをして、部屋の音声を常時チェックする。
何だか物凄く悪い事をしている気がしてきたが、自宅なんだし何の問題もない。
とにかく真実を俺は知りたいだけなのだ。

 

そして8時。

 

・・・8時半。

 

・・・9時半。

 

2時間が経過して気づいた。
これは物凄く辛い。
待っている時間が無限に感じられる。

時間つぶしの道具を何も持ってこなかったのが悔やまれる。
しかしそこで俺に妙案が！
ここは階段の踊り場で、俺の住んでいる部屋からは非常に近い。
家の無線LANがつながるのではないか！？
会社のノートパソコンを取り出し、電波チェックをしてみるとビンゴ！
電波は弱いが自宅の無線LANをキャッチする事ができた。

せっかくなので仕事でもする事に。
仕事してれば気もまぎれるだろう。

 

 

よーし仕事仕事！
そうして俺は有給中にも関わらず仕事を始めた。
これが社畜というやつか。
何の違和感もなく嬉々として仕事をしてしまう飼いならされた自分自身に軽い悲哀を感じつつも仕事をする。

 

 

そして9時50分頃になったところで嫁の携帯が鳴る。
おいおいまじかよ！！！

 

嫁「おはよー」

おい相手は誰だ！
相手の声は当然だが聞こえない。
盗聴器から聞こえるのは嫁の声のみだ。

嫁「うん、もうドラクエ、スタンバってるよー」

この時点で相手はドラクエのフレンドである事は確定だろう。
くそー！
相手が女性である事を祈りつつ盗聴を続ける。

嫁「とりあえず何するー？」
嫁「○○××△△□□」

専門用語だらけで俺には会話の内容がいまいち理解できなかった。
だがどうやらバージョンアップ後に何をするかの相談をしているようだ。
いっしょにプレイするんだな。くそー！

嫁「多分旦那帰ってくるの夜10時ぐらいかなあ？」

俺の帰宅時間を教えている？
こんな会話してる時点でもう真っ黒じゃないのか！？

嫁「うんそれまでは特に何もないしずっといっしょにいられるよ」

ぎゃーーーーーーーーーーーー！
いっしょにられるってなんだよ！

 

 

ああもうこれ真っ黒。
こいつは課長が言っていたドラ彼とかいうのがいるんだ。
もう間違いない。
心臓がバクバクして、発狂しそうだ。
ていうか吐きそうだ。
もう電話の内容を聞いているのも耐えられなくなってイヤホンを外してしまった。

 

 

いてもたってもいられず、俺はマンションを飛び出して近所のコンビニに行った。
そこでプレミアムモルツを買って一気に飲み干した。

ロング缶。

飲まなきゃやってらんねえぞこれは！
ああああああああああああああああ。
どうすんのこれええええええええええええ。

ロング缶をもう1本おかわりしてまたもや一気に飲み干す。
数分でロング缶を2本一気に飲んだ事によって酔いが急速に回る。
酔っ払った事によってなぜか少し冷静になる俺。

 

 

あとはリアルで会っているかどうかを確認しないといけない。
もうドラ彼とかいうふざけた存在がいる時点で俺は半分嫁を許せない気がするが、とにかくぶち切れるにしても全容を明らかにするのが先だ。
とりあえず酔いが冷めると発狂してしまいそうなので近所のファミレスに行ってビールを注文する。
この時間に近所でビールが飲める店はファミレスぐらいしか思いつかなかった。

 

 

朝10時からスーツ姿でファミレスでビールを飲む男。
非常に怪しい。
リストラでもされたのかと周りに勘ぐられないだろうか。
ふと周囲を見渡すと、暇そうな主婦っぽい人達や学生達がいくつかのテーブルに座っているぐらいで比較的空いている。
平日の朝にこんなとこにいるのは主婦と学生ぐらいなもんだよなぁ・・・
はぁああああああああああ。

こんな時でもビールがうまい。

だらだらとビールを飲んでいたら徐々に店内が混んできた。
時間を確認すると11時半。
そうかランチタイムか。

飯を食う気分にはなれなかったので、店を出る。
ランチタイムにスーツ姿で顔を真っ赤にしているやつがいたら皆にジロジロ見られて嫌な気分になりそうだ。

 

 

とりあえずマンションの階段の踊り場に戻って再び盗聴をしてみる事にした。
階段の踊り場で座り、イヤホンを耳につける。
嫁の声がきこえてきた。

嫁「何か食べたいものあるー？」
男「何でもいいからサクっと食べてドラクエしようよ」

え！？
男の声が聞こえる！？
ていうか何食べたいってどういう事！？

 

 

ええええ？
え？
え？

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Flooded With Business 管理人より一言

あーあ。
もうこれ確定ですね。
さよなら平穏な日々。
さよならあの頃の可愛かった嫁。

 

ところで今回の中で、テンパっている時にビールを飲むと落ち着くという描写がありましたが非常に共感できます。
僕も大学生の時、大勢の前で論文を発表する機会があって非常にテンパっていたら、ゼミの仲間がカップ酒をカバンから取り出して、手渡してくれた事があります。
それをグイっと飲み干して、論文発表をしたところ、冒頭から軽いジョークで笑いを取ったりしてかなり聴衆の心を掴む事に成功しました。
ちなみに論文のテーマは「現代日本社会におけるカルトとセクトによる効率的経済活動」というもので我ながらぶっこんだ内容のものを執筆したもんだなぁと今でも思い返します。
ある意味しらふじゃ語れない内容だったから良かったのかもしれません。
あ、そんなのどうでもいいから続きでしょ？
わかってますってば！

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