格闘18スキルの夜
フロントのあたりで、女の子達が三人、小林さんに向かって何かを喚いている。
「ちょっとちょっと。落ち着いて話してください。一体何があったんです?」
「だから!今部屋に戻ったら、床にこんな・・・・・・こんな物が・・・・・!」
女の子達が震えながら、小林さんに小さな紙切れを差し出した。
横からのぞき込むと、赤いマジックのようなもので、字が書きなぐってある。
こんや 21じ ぶとうかが いきる
おどろおどろしい文字だが、しっかりと確かにそのメッセージは書かれていた。
「今夜 21時 武闘家が 生きる?」
一体どういう事なのだろう。
僕が読み上げると、みんな一様に息を呑んだ。
そのメッセージを誰が残したかはわからない。
しかし、僕は見た。
はっきりとその文字を。
今夜21時に武闘家に生死を分かつような何かが起こるという事なのだろうか?
僕は真理と顔を見合わせた。
真理は最初は複雑な表情を浮かべていたが、次第にその表情はうっすらと笑みを浮かべていった。
真理・・・?
僕は真理の表情の変化に対し、妙な恐ろしさを感じた。
真理の職業は戦士だ。
そう、アストルティアに生きる者であれば誰もが認める物理系ナンバー1アタッカーとして、真理は常日頃から男達からの誘いがやむ事はない。
真理からしたら僕もそんな男の中の1人なのかもしれない。
僕の職業は魔法使いだ。
戦士である真理との相性は最悪といっても良かった。
僕と真理が知り合ってからというもの、僕からは何度もデートに誘ってみたものの、中々良い返事はもらえなかった。
それでもめげずにアタックを続けた結果、今回ようやくこのペンションでの一泊旅行へと誘い出す事に成功したわけだ。
真理曰くプラズマブレードからのメラゾーマ試してみてもいいかなって、との事だった。
そんな念願叶ってのペンション一泊デートの最中、スキーから帰ってきて一息つこうかという時に、こんな不気味なメッセージが雑然とペンションの一室に置かれていたのだ。
武闘家というと今はもうその職業に就いている人間がほとんどいないほど、人気がない仕事になってしまった。
数少ない武闘家がしでかしたちょっとした悪戯なのだろうか?
それにしても真理の表情の変化が気になる。
この文章を見て、怖がったり気味悪がったりするのはわかるが、笑みを浮かべるなんて一体どういう事なんだろう?
僕は真理に向かって・・・
———————-
A「どうして笑っているの?」
僕はストレートに質問を投げかけた。
B「武闘家だってさ。そういえばそんな職業もあったね」
職業にまつわる話を振れば真理もきっと喜ぶだろうと思い、武闘家について触れてみた。
C「シャワー先浴びてこいよ」
欲望に忠実にいく。それが僕の辿るべき道だから。
———————-
「シャワー先浴びてこいよ」
欲望に忠実にいく。それが僕の辿るべき道だから。
シャワーを浴びた後の僕と真理の情事を想像しつつ、はやる気持ちを抑えながら、つとめて冷静にシャワーを浴びてくるように促した。
「バカ!こんな時に何言ってるの!」
怒られてしまった・・・。
それもそうか。
真理はアストルティアに住み始めてからというもの戦士一筋でこの4年半渡り歩いてきた。
武闘家には散々バカにされてきた過去があったんだしな。
「ごめんごめん。でも武闘家が生きるってどういう意味だろうね?」
「わからないわ。でも思わず笑っちゃった。だって、武闘家が生きるって・・・ねぇ。もう武闘家なんてアストルティア中どこを探しても見当たらないじゃない。そんな武闘家に生きるも死ぬもないと思わない?もう存在してないのといっしょよ。大体何がためる参よ。あんなのCTで実装するなんてどうかしてるわ。」
僕は真理の饒舌っぷりに思わず面を食らった。
今まで見た事がなかった真理の一面だ。
こんなにもまくしたてるような喋り方をする人間だったのか。
今回の旅行に誘った収穫が早速一つ得られた。
これを今夜のおかずに楽しめそうだ。
テールスウィングを避けられずに死亡する僕(魔法使い)を罵倒する真理・・・嗚呼、たまらない。
想像するだけで昇天してしまいそうだ。
・・・いやいや、何を考えているんだ僕は。
そんな妄想の日々からは卒業するチャンスが目の前に転がっているんじゃないか。
万年、魔力妄想とメラゾーマしかする事がなかった魔法使いの僕だけれども、いよいよすぐそこにはその先の道が見えているんだよ。
ここは武闘家だかブドウ農家だか何だかよくわからない存在の事は無視して、真理との一夜をいかにしてゴールインさせるかだけに注力するべきだろう。
「しかしなあ・・・。武闘家いうても、タイガークローするなら今はまもの使いの時代ちゃうんか?」
皆が真理のまくしたてるような武闘家ディスに圧倒されて口を閉ざしてしまった中、香山さんがおもむろに話し始めた。
チッ、余計な事を。
ここで合いの手をいれるような武闘家ディスを続けたら真理がそっちの話に夢中になってしまうじゃないか。
僕はそれどころじゃないんだ。
「そうですよね!香山さんもそう思いますよね!ちなみに香山さんは職業、何されてるんですか?」
「ワイか?ワイはどうぐ使いや。ナニワの人間やからな。しかも社長やで、社長」
「えー、凄い!じゃあ戦闘中も倍化で聖水まきまくりなんじゃないですかー?」
「いやまあ、聖水っちゅうか、倍化もタイムロスやしな。ワイは専らエルフやな。雫も常時99個持ち歩いとるで」
「お金持ちなんですねー、すごぉ~~い」
くそっくそっくそっ!
真理の声のトーンが一変した。
この声質は、僕が生きてきた中、一度も向けられた事がないやつだ。
そう、雌が雄に媚びるテクニック。
甘くとろけるような声で、雄を褒め殺す技術。
香山め。
僕の真理に手を出したらどうなるか思い知らせてやる必要があるな。
———————-
A「そうは言ってもどうぐ使いってバイキルト奴隷でしょ?僕のような魔法使いには必要ないね」
香山さんへの怒りが抑えきれず思わず僕も参戦。
B「そんな事より武闘家が生きるってどういう意味なのかな?」
香山から気をそらすためにも武闘家について改めて触れてみた。
C「小林さん今何時ですか?」
僕はふと現在の時刻が気になった。
———————-
「小林さん今何時ですか?」
僕はふと現在の時刻が気になった。
「透!今は時間なんてどうでもいいの!そんな事より戦士とどうぐ使いのパーティ内の相性の良さについて香山さんと語りつくす方が重要よ!」
「まあ待ってくれよ真理。僕はわかってしまったんだ」
そう、僕は理解した。
あの謎のメッセージ”こんや 21時 ぶとうか いきる”の意味を。
「わかってしまったって、どういう事だい?もしかしてメッセージの意味が・・・?」
小林さんが驚きを隠せない表情で僕の問う。
僕は得意げに語り始めた。
「そうです。メッセージの謎は全て解けました。このメッセージの意味も、そしてこれから起こるであろう惨劇についてもね・・・」
「惨劇?どういう事や。わかりやすぅ説明してや」
香山さんがすっとんきょうな顔をしながら僕に説明を求めてきた。
ふふん、アイテムを使うしか能がないやつにもわかりやすく教えてやる必要があるようだな。
「ええ、わかりました。順を追って説明しましょう。まずは”今夜21時”の部分です」
「今夜21時というと・・・もうあと10分程度ね」
「そう。今日は11月25日。何の日か皆覚えていないのか?」
「ん、11月25日って何かあったか?」
「あ・・・」
「気づいた人もいるようだね。今日11月25日はDQXTVが放送される日なんだよ」
「バージョン3.4後期詳細情報か!」
ずっと押し黙っていた久保田さんが大声をあげた。
ちなみに久保田さんはこのペンションでアルバイトをしている自称大学6年生、万年うだつのあがっていなさそうなレンジャーだ。
「そうです。そして恐らくこのDQXTVの後期情報で武闘家に関する何らかのサプライズ情報が公開されるのです」
僕は得意げかつ高らかに、そう宣言した。
「えっ!?」
「まじかよ」
「武闘家ごときにサプライズ・・・?」
「バトルマスターの席がなくなるのは嫌だわ」
「そもそも武闘家に調整なんてあと3年は不要なのでは」
僕の推理に皆がざわつきはじめた。
これだ、この空気を待っていた。
この大魔法使いである僕の推理に皆が注目する瞬間を。
「静かになさい!!!」
ペンションのオーナー負債である小林今日子さんが場を制した。
それもそのはず、彼女の職業は僧侶。
武闘家に何があろうが、それは所詮彼女にとっては小競り合いでしかなく、大局的には無関係を貫けるからだろう。
僧侶は唯一、アストルティア誕生以来常に第一線で活躍し続けている職業なのだから。
同じ呪文を扱う職業として、僕と同じぐらい冷静沈着だという事でもあるんだろう。
「徹君、続けて」
「わかりました。とにかく今夜21時からのDQXTVで武闘家に関する何かが明かされるはずです。まずは皆でそれを視聴するという流れでどうでしょう?そうすればきっとあのメッセージを残したのが誰なのかも理解いただけるはずです」
「ほうか。ほな皆で見ようや。せや、MP減ってるやつおったらエルフ投げるで」
「あ、私お願いしますー」
「私も私もー」
「ずるーい、香山さん私2個ほしいー!」
ずっこけOL三人組が我先にと香山さんからエルフの飲み薬をもらおうと黄色い声をあげた。
全く、このあばずれどもが。
真理に比べたら月とスッポン。
卑しさが前面に押し出された愚民どもという形容が相応しい存在だ。
僕の素晴らしい推理の披露直後だというのに下世話すぎるぞ。
大体このOL3人組は揃いも揃ってバトルマスターだという。
「バトバトバト僧」という構成で全部のボスいけちゃいますというのが彼女達の言い分らしいが・・・そんなパーティは美しくないと僕は思う。
ロマンに変えるよそもそも。
やっぱりアストルティアのロマン担当といえば魔法使い。
雄弁にものを語りつつも、冷静に後ろから敵をメラゾーマでスナイプする。
そんな魔法使いこそ至高の職業さ。
大体僕は21年間貞操を守ってきたんだ。
魔法使いはある意味選ばれた存在とも言えるじゃないか。
全てを悟りし賢者とは違うんだ、知らない事があるというのが強さにつながる事だってある。
それをミラクルもろばブームにのっかって昨日今日バトマスをはじめたようなOL達に理解できるとは思えないけどね。
そんな事を考えていたら気づけば時刻は21時近くになっていた。
「どうしたんだい徹君。雄弁に語りだしたと思ったら今度は急に押し黙って」
美樹本さんだ。
美樹本さんはブロガー兼まもの使いというキャリアの持ち主なのだそうだ。
「いえ、魔法使いも最近出番があんまりないなあ、なんて考えてました」
「ははは、確かにね。でもアストルティアは常に状況が目まぐるしく変わる世界さ。来月には急に魔法使いが引っ張りだこになるかもしれない」
「ええ・・・そうですね」
美樹本さんはこうして優しく僕を慰めてくれた。
「おっDQXTV始まるみたいだよ。僕のノートパソコン(ガレリア QSF1060HE)で放送を見ようじゃないか」
時計の針が21時を指した瞬間、小林さんがさりげなくノートパソコンのスペックを自慢しつつ、皆にDQXTVの視聴を促した。
こいつ、自分のハイスペックパソコンを自慢する機会を伺っていやがったな・・・、じゃなきゃ21時ジャストタイミングにこんな気の利いた事するわけがない。
全くどいつもこいつもくだらない・・・。
僕はWiiを使っているけどプレイには全然問題ないぞ。
普通にレグナードも倒している。
・・・・ダークキングは魔法使いに席がないから倒した事がないけど・・・。
DQXTVでは前半どうでもいい内容のオンパレードだったが、最後の最後でりっきーのくちから職業180スキルの実装が語られた。
皆それぞれ自分の就いている職業がどうなるかが気になるようでザワザワしはじめた。
「行雲流水!?」
武闘家の新特技がモニターに流れた。
「テンションが一定時間下がらなくなるだって?」
「これはすごい・・・」
「バトマスどうなっちゃうのー!」
それ以外の職業の特技がすべて霞むほどのインパクト。
今回の新特技の中で一際輝く破壊的必殺技。
「なによ・・・これ・・・」
戦士である真理は自分の地位が脅かされる恐ろしさからか、顔面蒼白になっている。
と、その刹那・・・
シューシャオシャオ
!?
激しくツメが肉を切り裂く音が背後から鳴った。
「どりゃあっ」
素早く後ろを振り返ると、そこには背後から背中をズタズタに引き裂かれ、なぜか鼻血まで噴いた香山さんが今まさに仰向けに倒れこんでいた。
そして香山さんの倒れた後ろにいたのは・・・・竜王のツメを装備した美樹本さんだ!!!
「美樹本さん・・・やはりあなたでしたか」
「ほう、徹君は気づいていたのか。さすがじゃないか」
「徹!一体どういう事!?美樹本さんがなぜこんな事を!」
真理が僕に疑問を投げかける。
そう、僕にはすべてわかっていた。
「美樹本さん、あなた僕には職業まもの使いだと言っていましたが、本当は転職組なんじゃないですか?そう、武闘家からの!」
「ふふふ、その通りだ徹君。僕はアストルティアが誕生したその日から武闘家だった。
常にツメを研ぎ、攻撃力は毎バージョン理論値。
合成システム初期の時代からバトルチョーカーもオール5にしていたほどの入れ込みようだったさ。
それが今じゃどうだ!?
戦士、バトルマスター、魔法使い、踊り子、どんどん新しいアタッカーや強化が続いて俺の出る幕なんてどこにもない!
それどころかやつら武闘家を堂々と馬鹿にするような発言ばっかりしやがって!
お陰で俺は好きでやってる武闘家を続ける事すらできず、仕方なしにまもの使いに転職したのさ!」
「しかしなぜ・・・香山さんを・・・」
「香山?ああ、そこに倒れている腐れどうぐ使いの事か?こいつの事なんてどうでもいい。俺はお前らを皆殺しにするつもりだよ。俺にとって必要なのは魔法戦士と僧侶だけだからな。この中じゃ僧侶をやってる今日子さんだけは生かしてやってもいいかな」
「狂ってるわ・・・」
「やめて!私だけでも助けて!」
女性達が勝手な言い分を喚き散らしている。
「美樹本君、無茶はやめろ。いくら武闘家が強化されるといったってそれは未来の話。今ここで僕らを全員倒すなんて無理な話だぞ!」
ペンションオーナーの小林さんが現実的な説得を試みる。
その通りだ、いくらなんでもこの人数全員を殺すなんて不可能だろう。
「ふっふっふ、甘い、甘いよお前ら!お前らは油断して武器も防具も装備していないじゃないか!これを見ろ!」
「そ、それは孔雀姫のおうぎ!!!」
「そう、最新の扇だ。錬金効果は攻撃力6(+3)、攻撃力6(+3)、攻撃力6(+3)。つまり理論値だ」
「ふ、ふん。理論値だからなんだというんだ!やられる前にやってしまえばそれまでだ。」
「あまいね、ほらおたけび!!!」
僕たちは瞬きをする間もなく、一瞬でスタン状態になってしまった。
「はっはっは、おびえガード装備をつけていないせいか、全員綺麗に食らってしまったね」
頭上からは美樹本さんの高笑いが聞こえてくる。
しかし、意識は遠のき、体が言う事をきいてくれない。
このままじゃ・・・やばい・・・。
「あとはこれで終わりだ。ためる弐ためる弐・・・からの百花繚乱!」
こうして僕らは全員、美樹本の百花繚乱によって殺される事となった。
目の前にはただ赤。
ぼくの喉からあふれ出す血の赤。
最後に思ったのは、こんな事になるのであればスキーの時にこけたふりして真理のおっぱい1回ぐらい揉んどきゃ良かった、ということだった。
・・・真理・・・。
2016年12月17日 ジャンプフェスタドラクエ10バトルトライアルにて
美樹本「えっ?行雲流水のテンション維持って1段目の攻撃にしかのらねーの?
ダメだこりゃ!」
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コメント
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2017年 2月 14日
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続編のスパイ編に期待w
格闘180スキルじゃなくて18スキルであってるん?
中村光一好きすぎるだろ主w
ピンクのしおり編にも期待しています
長いわ!w
すごく笑いました。読んでる間ニヤニヤが止まらなかったw
こういう面白いのを書けるのはこのブログだけですよね。
プラズマよ!プラズマの仕業だわ!
インテリ眼鏡の亜紀ちゃんだ!
この記事見逃してました、サムネに食いついてみたらめちゃくちゃセンス良い記事でした!
めちゃくちゃ面白いです、最高です←こう書いておけばいいですよね?
この記事腹抱えて笑いました、石板6穴どうするか記事お願いします
最後のくだりでGPもありますしコロシアム記事書いて欲しいなと思いました
装備やベルトの記事でコロシアムは考慮しないって文言をみると悲しくておもしろく切ない気分にさせます
私はコロシアムやりませんがぶとうかはいきる
最後のとこ、コロだよな~と思いました~
(おびえG必須だよねw)
コロで ぶとうかは いきる のかな?!
かまいたちパロ面白いですねーとくに道具の香山がいいw
誤字など気にしちゃ駄目かもですが何か気になったので。
負債→夫妻
ロマンに変える→欠ける?
面白かったんで、ドワチャッカの完結
期待してます
面白いですねw
かまいたち好きです
ビジちゃんさすがやわー
しゃぶらせます。
下手な小説読むより、面白かった!w
超おもろいw
これは他のゴミブロガーには書けないわ
自称大学6年生、うだつのあがらないレンジャーの久保田さんのところで、なにやら目からあたたかい水が…w
もう少し強くもう少し出番ができますようにと、明日をドキドキしながら待っております♪( ´▽`)
おそらく1周目では出ないであろう選択肢Cを選んでいくスタイルにウケました。
こんな文章書けるなんて、ほんまに頭良いなぁ〜
めっちゃおもしろいです!
かまいたちの夜好きだったからウケたw
サイコーッス
面白いわwww
ちょうど昨日、ニコ生のユーザー番組でかまいたちの夜やっていたのでなつかしかったです