ラズバーンを倒した後の俺たちは、数日間をかけて残り4個のキーエンブレムを集めていった。

 

■以前のお話

ドワチャッカより愛を込めて　その1
ドワチャッカより愛を込めて　その2
ドワチャッカより愛を込めて　その3
ドワチャッカより愛を込めて　その4
ドワチャッカより愛を込めて　その5
ドワチャッカより愛を込めて　その6
ドワチャッカより愛を込めて　その7
ドワチャッカより愛を込めて　その8

それまでのサクサク進める感じではなく、チャットをしたり町の人と喋ったり、アホな追いかけっこなんかをしたりして、ゆっくりと進めた。
出てくる雑魚やボスはラズバーンの時と比較すれば弱かったから特に苦戦する事はなくて、RPGとしてはそんなに面白くなかったけどそれでも良かった。
多分皆この世界が終わるのが嫌で、もっと長く遊んでいたいんだろうなあ・・そんな感覚がなんかゲーム画面から伝わってくるようだった。
チャットではアホな事しか言っていないのに、何だか不思議な気持ちだ。

 

そういえばアイちゃんとはあれから妙にチャットの量が増えた。
キーエンブレムを集めるのは4人揃っているときだったから、4人が揃っていないときは皆がそれぞれレベル上げをしたり、いる人だけでptを組んで誰かの職業クエストを進めたりした。
そんなある日、アイちゃんからチャットがきた。
しばらくは本当に他愛も無い話をしていた。
好きなお菓子はなんだとか、最近のこの漫画が面白かったとか、新宿のゲーセンの話とか。
そんな普段ならどうでもいい話も、相手がアイちゃんだと途端に楽しくなるから不思議だ。
女っていいもんだな・・・。
ていうかもうまじこれ好き。
アイちゃん好き。
会いてー。

 

 

この日の少し前、キーエンブレムの攻略情報を調べている時、たまたま2chも見た。
そこによると今の俺みたいなやつの事を2chでは出会い厨というらしい。
なんだそりゃって思って調べてみたんだけど、要するにオンラインゲームで女と出会うために頑張っちゃうやつの事を言うらしい。
つうかそんなの別に厨でもなんでもなくねえ？
だって普通に俺だって女の子と知り合えたら嬉しいし、いっしょに遊んでて楽しかったら会ってみたいとか思わないのか？
ゲームのキャラがどうこうじゃなくて、なんかあんま上手く言えんけど、そのキャラを操作しているのは普通の人間なんだし、どんな形でも相手に興味持つのって自然じゃない？
とにかく俺のこういう気持ちって別に悪い事じゃないと思った。
そんで、別にドラクエで出会ってもいいじゃんみたいな事を2chに書き込んでみる事にした。
2chはこれまで書き込んだ事がなくて初めて書いてみたんだけど、数時間後にまた見てみたらびっくりするぐらい反応があった。
最初は俺に対して「童○ｗｗｗ」とか「他でやれ、これゲームだぞ」みたいな書き込みがいっぱいあった。
でもその後は俺に対するどうこうじゃなくて、出会いOK派と出会いNG派の真っ二つに分かれて言い合いみたいな事が起こってた。
何か色んな考えのやつがいるなーって思ったけど、とにかく俺は別にこんなやつらの言う事なんてどうでもいいからアイちゃんともっと仲良くなりたいと思った。

 

 

そんな事を考えながらもアイちゃんとの楽しい冒険は続いていった。
ラスボスは倒さずに、キーエンブレムを全部集めた後は色んな職業のレベル上げをしたり、職業クエストをしたりして遊んだ。
まさしやエックスやプクリポも勿論いっしょに遊んでいたが、夏休みも終わりに近づくにつれて、段々と俺とアイちゃんの2人で遊ぶ時間がふえていった。

 

プクリポはバイトで忙しくてあまりゲームしていられないらしい。
欲しい服があるからバイトいっぱいするんだと。

エックスはいい加減レベル上げは飽きた、ラスボス行く時は呼んでくれと言ったきりほとんどログインしなくなった。

まさしは頻繁にログインしているが、レベル上げはあまり気乗りしないらしくてひたすら盗賊でゴールドを稼ぐという事に熱中しているようだった。
100万ゴールド貯めると称号がもらえるらしく、それを取るまでやり続けると言っていた。
お前も化石とりにいかない？って誘われた事があって1度だけいったけど、あまりに単純作業でつまらなすぎてもう2度といかねーって思った。

 

 

結果的にアイちゃんと2人で遊ぶ時間が増えて、俺はアイちゃんと色んな話をした。
その中で凄く印象深いチャットがあった。
「タケシ君はリア友とドラクエしてていいね」
「うちはそんな友達いないよ～」

 

そのチャットを読んだ時はあまり何も感じなかったが、その後アイちゃんの事を知っていくうちに、なんとなく気づいた。
アイちゃんは多分学校でいじめられている。
いじめられているというほどではないかもしれないけど、はぶられている。
もしくは学校で友達が全然いないんじゃないか？
そんな気がした。
俺やまさしやエックスやプクリポがリアルで友達と遊んだ話とかをする事は多かったけど、アイちゃんはそういう話をする事は一度もなかったし、あまりそういう話の時は食いついてくる感じがなかったからだ。

 

ほかにも何となくわかってきた事がある。
アイちゃんは俺でも知っているぐらい頭のいい高校に通っているみたいで、そんな高校生は普通こんな時期にゲームばっかりしていないはずだ。
勉強してるはずだ。
俺は高校2年生だからいいけど、アイちゃんは俺の1個上だから高校3年生。
さすがにアンポンタンな俺でも高3の夏が重要な時期だっていうのは知ってる。
でもそれについて俺がアイちゃんに何か言ったら、アイちゃんがいなくなりそうで、怖くて、何もいえなかった。
俺はいつものようにくだらない話をし続けた。
相変わらずラスボスは倒さずに、ほかの事をして遊んでいた。
そうして夏休みも終わりに近づいてきた。

 

 

あれは8月27日だったか、28日だったか、とにかくいよいよ夏休みも終わるという悲しみの中、迎えた昼過ぎだった。
前日も夜中までドラクエをしていた俺は12時ぐらいに起きて、飯を食って、ドラクエにログインをした。
ドラクエの郵便受けを見ると、一通の手紙が届いていた。

アイちゃんからだった。
かわいらしい背景の手紙に、アイちゃんからのメッセージが書かれていた。

「今までありがとう。実は色んな理由があってドラクエができなくなりました。もしかしたら今日か明日少しログインできるかもだけど、それはわからないから先に伝えておくね」

 

え！？
なにそれ！
なんで！？
えええええ？
せっかく仲良くなれたのに！
2人でいっぱい遊び始めた矢先だったのに！

 

俺は自分でもびっくりするぐらい落ち込んだ。
モウナニモスルキガオキナイ・・・。

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Flooded With Business 管理人より一言

出会いがあれば別れもある。
オンラインゲームであってもそれは同じ。
とても気が合い、楽しく遊べる相手であっても、それが永遠に続く事などない。
これまでに体験した事がないような楽しい時間をアストルティアですごしてきたたけしだったが、それももう終わりを告げようとしていた。

皆さんはドラクエ10でそういった出会いや別れはありましたか？

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